約 1,076,879 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/451.html
地面に倒れたまま、中々動かない才人と少女。 このままではマズイ。すぐさま、僕は二人の瞼を開いて意識を確かめる。 白目を剥いていた。 次は呼吸だ。 制服のポケットからティッシュを取り出し、薄く裂いて二人の顔にかぶせる。 二人とも規則正しく、ぴくぴくとティッシュを動かす。呼吸はあるようだ。 どうやら伸びているだけのようだ。 おそらく命に別状がないことを確認した僕は、そのまま二人を森の草むらへと隠した。 これで意識が戻るまでの間ぐらいは、追ってくる相手を巻けるだろう。 一応、追っ手が来れば解るよう、ハイエロファントを辺りにはりめぐらしておく。 そこまでの動作を終えた所で、僕は二人を隠した草むらに、倒れ込むようにして座り込んだ。 これで少しは肩の力も抜けるだろう。 まだ暗くなりきっていない空を見上げると、優に二倍はある大きな月が二つ、僕らを見下ろしていた。 変な動物を見た時も思ったことだが、これで一つ、確信が出来た。ここは僕の知る世界ではないのだ。 改めて確信すると、元の世界の両親の事を思い、寂しい気持ちになった。 だがそれ以上に今の、この奇妙な体験が、頭の殆どを占めていた。 「……。どうしたものかな」 僕は気絶した二人を横目に、今後の方針のため、先ほどまでの事や、喋っていた事を整理する。 整理して解ったことは三つ。 1、ここは自分のいた場所とは、全く別のものであり、昔のヨーロッパのような身分制が引かれていると云うこと。(どの程度、細分化されているかは不明) 1、少なくともこの辺りは、何故か日本語が通じるため、コミニケーションを取るに当たって不自由は無い。 1、ここにはスタンドに似た概念が存在していて、それを使うには杖(どの程度、形状が定まっているかは不明)が必要。 また概念によるクラス分けが存在する模様。 この概念は様々存在しているが、同時に複数使うことは不可能、または困難である。 整理したことで、この世界のルールはある程度解ったが、肝心の、何故僕がここにきたかまでは解らなかった。 とりあえずこの少女には、色々喋ってもらうことがありそうだ。 「あれ? ここは……」 才人は起きあがり、数回頭を振って、辺りの様子を見回す。 いまいち状況が理解できていないようだ。いや、それで普通なのだろう。 こうも淡々と状況を整理している僕が、あまりに非常識すぎるだけだ。 「ようやく、起きたようですね。才人」 「あれ? 花京院…… って事は、夢じゃなかったのかよ」 「ともかく、状況を説明します」 僕は先ほど整理したことを、かいつまんで説明する。今、確実に頼れるコミュニティーはお互いだけなのだ。 才人は、常人なら理解の範疇を越えるであろう僕の憶測を、多少取り乱しはしたが、合間合間に質問を挟みながら聞いていた。 そして全て説明し終えた時、才人は肩を落として、深いため息をつき、弱音をはいた。 「俺達、どうなるんだろうな」 「僕にも解りません。ともかく今は……」 僕は視線を少女の方へと落とす。才人もつられるようにして、少女の方に目線を持っていった。 「この少女に、いろいろ聞く他ないでしょうね」 「はぁ……それし…… がっ!? ぐぅああああああああああああ!」 「才人ッ!?」 突如、才人が左手を押さえて苦しみだした。その押さえた左手は発光しているらしく、押さえている右手の隙間から強い光が漏れる。 まさか、さっきの奴らが使った攻撃か!? 「おい! 起きろ!」 僕は急いで少女をたたき起こした。本来、女性をこうやって邪険に扱うのは許せん事だが、今は緊急事態だ。気にしてはいられない! たたき起こされた少女は不満そうに、目をこすりながらこちらを見た。 「どうすればアレはおさまるッ!」 「はえ……」 まだ完全に起きてはいないらしい。もう一回叩けば起きるかと思ったが、女性を二度叩くのは、いささか気が咎める。 「っ!」 無理にでも起こすか考えている内に、僕の左手の甲に、うっかりストーブを触れてしまったような熱さが、一瞬だけ奔った。 慌てて左腕を見る。先ほどまでと何も変わらない左腕だった。 僕は才人の方に目をやった。左腕の発光は既に収まり、代わりに何かの文様が浮き上がっていた。 「なんなんだよ、これ!」 「………! なんでアンタの方が使い魔になってるのよ!」 才人が自分の手の甲を見て、驚いたように声をあげる。 その声で意識が完全に覚醒したか、少女の方も大声を上げる。こちらは怒鳴っているような声だ。 その声にかちんときたのか、今まで溜まっていた非常識な事に対する怒りが爆発したか、才人も少女を怒鳴りつける。 そのまま二人は、僕のことなど眼中に無いように罵り合いを始めた。 「俺の身体に何しやがった!」 「使い魔のルーンが刻まれただけよ! というか何でアンタなのよ! 私はあっちの『メイジ』と契約を交わすハズだったのに!」 「メイジって何だよ! 意味わかんねえよ!」 「平民が、貴族にそんな口聞いていいと思ってるの?」 「知ったことか! 今すぐ戻せ!」 「その辺でもう……」 このまま何時までも、二人に口げんかをさせていては本当に日が暮れる。 こんな軽装で野宿はごめん被りたい。 僕はこの不毛な争いを止めようと間に入る。 「できるんなら、とっくにしてるわよ! なんでアンタみたいなのを『召喚』しちゃったの!」 「何だって!? 『召喚』!?」 「な、何! 急に大きい声出さないでよ!」 少女の一言に、僕は思わず反応した。 彼女が僕らを呼び出した奴だというのか? しかも「アンタみたいなの」と言った。 つまり、特定の相手を呼び出そうとして呼びだしたわけではないらしい。つまり、僕や才人がここに来たのは『事故』と云うことだ。 つまり僕は独り相撲を取っていたというわけだ。相撲は好きだが、独り相撲は相撲じゃない。などとずれたことを考えた。 しかしこれはマズイ。元の場所に帰れる方法を知っているかもしれない相手の心情を、勝手に暴れて悪くしてしまったことになる。 そうでなくても、少なくとも帰る手段を探すまでは、こちらで生活する必要があるのだ。 ここは何とかして、少女に協力を取り付けるしかない。 少女は僕たちが先ほど逃げてきた施設(トリステイン魔法学校というらしい)へ戻ろうとする。 僕はともかく、この少女……ルイズについていきながら、今の僕らの状況を、憶測もふまえて説明した。 「……という訳です」 「それ、本当?」 「嘘ついてどうするよ」 「信じられないわ。異世界があるなんて」 「違う星、という可能性もありますが」 説明している間に暗くなった空を見上げ、僕の知っている月の、優に二倍はある二つの月を眺めながら、言う。 「どっちにしたって同じよ。いったいそんなものが何処にあるのよ」 「俺の元いた所にはあったんだよ! そこには月が一つで、魔法使いもいな……い……よな?」 才人が途中で言葉をうち切り、僕の方に話を振る。 僕のスタンドも、彼からしてみれば魔法と同じくファンタジーの産物だろう。 そういえば一度も説明していなかった。話すだけは話しておく必要があるだろう。 僕は簡単に精神の力を、様々なものを通じて実体化させる力とだけ説明をした。 しかし、なまじ似た概念が存在すると、返って理解を妨げるとは思わなかった。 「だから『魔法』と何が違うわけ?」 何度説明しても、さっきからずっとこの調子だ。わからんやつだなッ! とどこか叩きたい気分になった。 まだ才人のように、超能力ですましてくれる方が楽だ。 理解してくれるまで、同じ説明を何度も繰り返している内、僕らはようやくトリステイン魔法学院にたどり着いた。 つくなりルイズは、 「あんた達はここで待ってなさい」 といって僕らを門の前で待たせ、先に学院の中へ入っていった。 まぁ、あれだけ暴れた相手がまた学院に姿を見せれば、騒ぎになることは間違いない。 待っている間に、僕は門に身体を預け、これから先のことに思いをはせた。 「なぁ、俺たちどうなるんだろうな」 「……」 「家に……帰りたいなぁ……」 「……ああ」 しんみりとする。僕もふと、両親の事を思い出していた。 父さんと母さんはどうしているだろう。もう寝むっているのだろうか? 晩ご飯も無駄になったんだろうな。心配かけてすみません。 「あ! 」 「どうしたッ!」 突如、才人が挙げた声に驚き、僕は思考を中断して反応した。 「パソコン入ったカバン、落とした」 「才人……」 「ん? 」 僕はとりあえず、才人の顔面に、後で肘を決めておく事にした。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2555.html
反省する使い魔! 「ゼロと爆発、そして…」 そしてここはルイズたちが授業を学ぶ教室である 現在音石は教室の後ろ壁に背をつけながら 特にやることも無いのでギターを調整している。 「みなさん、春の使い魔召喚は大成功のようですね」 紫色のローブを纏った中年女性教師シュルヴルーズが生徒たちに声を掛けた。 「おやおや、これはまた随分と変わった使い魔を召喚しましたね、ミス・ヴァリエール」 すると一人の小太りな生徒、マリコルヌがいきなり立ち上がった。 「先生!ルイズが召喚なんてできるわけありませんよ! どうせそこら辺の平民を連れてきただけですよ!」 すると教室中の生徒がドッと笑い出す。 「いい加減な事言わないで!かぜっぴきのマリコルヌ!」 「かぜっぴきだと!?僕は風上のマリコルヌだ!」 「おやめなさい!」 そう言ってシュルヴルーズが杖を振るとマリコルヌ含む、笑っていた生徒たちも 彼女の魔法で口を赤土で防がれてしまった! (こんなんもできんのかよ……もうなんでもアリだな…) 音石はギターの調整に集中しながらも、一番近くで 口を塞がれている生徒に目をやり感心していた、 そして授業がはじまった… 講義を聞いているだけでも色々なことがわかる。 魔法には土、水、火、風、そして失われた虚無を含め五つの属性があり メイジはそのうち一つは必ず使えること。 その属性をいくつ使えるかによって四階級が存在するらしいこと。 メイジにはみな、それぞれ二つ名のようなものがついていること。 スタンドとは違い、一つの属性でも様々なことができるらしいこと。 講義が進むといよいよ実践になり、シュヴルーズがただの石を真鍮に変化させた。 この時キュルケが真鍮をゴールドかと勘違いし、席を立ち上がったが 違うとわかった瞬間、つまらなさそうな顔で席にもどった… なんとも現金な女性である…、 ついでに言うと音石は勉強が好きというわけではないが記憶力は抜群によかった 杜王町の電気回線の位置をすべて記憶したり、ギタリストとして名を上げたら 外国に飛ぼうと考えていた為、英語はペラペラである。 「ではこの『錬金』を…ミス・ヴァリエール、貴方にやってもらいましょう」 そう言った瞬間、教室中の空気が一気に凍り付いた。 音石はそんな生徒たちの反応に疑問を感じた。 すると、生徒たちから反対の意見が飛んできた! 「先生、やめといた方がいいと思いますけど」 「そうです。無茶です、先生!」 「『ゼロ』に魔法を使わせるなんて!」 「危険です!」 しかしシュヴルーズは悲しいことに音石同様、 ルイズの『ゼロ』の意味を理解していなかった。 そしてルイズ本人もそんなクラスメイトの反応に腹を立てていた。 「わかりました!やります!」 「ルイズ!お願いやめて!!」 キュルケの静止も無視しルイズは教壇に向かっていく、 すると生徒たちが一斉に机の上に潜り込み始めた。 (こいつはぁ…なにかあるな…) 音石も事の異常性に感付きどうするか考えていた。 ある程度の事なら『レッド・ホット・チリ・ペッパー』で対処できるが なにが起こるか予想できない以上、現時点では音石に対処の仕様がない。 生徒たちと同じように机に潜り込むのがベストなんだが、 生憎そんなスペースも無かったし、決して入れてやらないと 睨み付けてくる生徒までいた…、 心当たりは無いがなんとも嫌われたモノである… そしてルイズが教壇の前に立った時である。 机に潜り込んでいるギーシュが隣にいるリボンとロールヘアーが特徴の 女子生徒に話し掛けるのが聞こえた。 「まったく、『ゼロのルイズ』には困ったものだね、モンモランシー」 「まったくよ、ほんと迷惑しちゃうわ!」 薔薇を口に咥えているギーシュと 腕を組んでいるモンモランシーという少女が声を荒げる。 するとそのモンモランシーが何かを思い出したかのように ギーシュを見やる。 「そう言えばギーシュ、あなた昨日一年の女子生徒と 一緒にいたらしいけど…何してたの?」 「えっ!?なぜそれを…あ、いや…ソレはあれだよ… 軽い世間話さ、決して君が思ってるような事はしてないよ!モンモランシー」 「……わたし、まだ何も言ってないんだけど…」 「え、あっ!?し、しまった…」 「ちょっと、ギーシュ、あなたまさか!!」 怒り余ってモンモランシーが机から飛び出し立ち上がった。 ギーシュが慌てて止めに入り、手を差し伸べる。 「ご、ご、ご、誤解だよ!モンモランシー! ほ、ほら…危ないから、早く戻って…」 「触らないでッ!!」【スルッ!】 「え?」「えっ!?」 モンモランシーがギーシュの手を振り払った途端、 なんと彼女の体が勢い余って足を滑らせ、 机と机の間に身を乗り出してしまったのだ!! それと同時にルイズが錬金を開始し、教室一帯が光に包まれた!! 「あ、ああ!?モ、モンモランシー危ない!!」 「い、いやああああああああっ!!!!」 そして次の瞬間、教室が盛大に爆発した…… 教室中に煙がはびこみ生徒たちがゴホッゴホッと咳き込んでいる。 「げほっ…、くそっ!またか『ゼロのルイズ』!!」 「毎度毎度よくやるよ!!」 「ホント!迷惑しちゃうわ!!」 数々の罵倒をルイズに投げかけるが、 その内、ギーシュを含め何人かの生徒が顔を青くしていた。 「あ…ああ、…モンモランシー……なんてことだ…」 ギーシュが今にも泣き出しそうに呟く、 シュヴルーズは爆発の際に吹っ飛んだ教壇が盾になったおかげで 気絶だけで済んだが、モンモランシーはあの爆発をモロに受けてしまった! 誰もがそう思った……しかし……… 「危ねえ危ねえ、まさか爆発するとは思わなかったぜ…」 「「「なッ!!?」」」 煙が晴れるとそこには信じられない光景が広がっていた なんとモンモランシーが無事だったのだ! 彼女の前にはルイズの使い魔の平民… 音石明が手に持つ机を縦に立て、それを盾にし モンモランシーをルイズの爆発から護ったのだ!! ついでに音石が持っている机は自分から一番近くにいた… つまり、マリコルヌと生徒Aから拝借したものだった。 当然そのふたりは吹っ飛び目を回しているが一番後ろの席だったので 心配することはなさそうだ。 その信じられない光景にギーシュや他の生徒たちは目を見開き唖然としている。 いつの間に!?どうやってあの距離を!?あの距離を一瞬で机を持って移動したのか!? などの疑問が飛びあうが、一番疑問なのは護ってもらった張本人 モンモランシーだった。 「ちょ、ちょっとあなた!?」 「ん?なんだよ、余計なことでもしたかよ?」 「い、いえ…そうじゃなくて……あ、あなた、どうして私を助けたのよ!?」 「はあ?なに言ってんだおめー?」 「だ、だって誰も貴方のことを机の中に入れようとしなかったじゃない! さっきの貴方の反応、あなたルイズの爆発の事知らなかったんでしょう!? なにが起こるかわからなかった筈なのに…なのになんで 危険を省みず私を助けてくれたの!?初対面の筈なのに…下手をしたら 自分まで危なかった筈なのに……、答えなさい!!」 音石は頭を掻きながらそっぽ向いてただ一言、簡潔にこう言った 「深い理由なんかねぇよ、大袈裟かもしれねーが… 「なにも死ぬこたあねー」 さっきはそう思っただけだよ」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/91.html
偉大なる使い魔-1 偉大なる使い魔-2 偉大なる使い魔-3 偉大なる使い魔-4 偉大なる使い魔-5 偉大なる使い魔-6 偉大なる使い魔-7 偉大なる使い魔-8 偉大なる使い魔-9 偉大なる使い魔-10 偉大なる使い魔-11 偉大なる使い魔-12 偉大なる使い魔-13 偉大なる使い魔-14 偉大なる使い魔-15 偉大なる使い魔-16 偉大なる使い魔-17 偉大なる使い魔-18 偉大なる使い魔-19 偉大なる使い魔-20 偉大なる使い魔-21 偉大なる使い魔-22 偉大なる使い魔-23 偉大なる使い魔-24 偉大なる使い魔-25 偉大なる使い魔-26 偉大なる使い魔-27 偉大なる使い魔-28 偉大なる使い魔-29 偉大なる使い魔-30 偉大なる使い魔-31 偉大なる使い魔-32 偉大なる使い魔-33 偉大なる使い魔-34 偉大なる使い魔-35 偉大なる使い魔-36 偉大なる使い魔-37 偉大なる使い魔-38 偉大なる使い魔-39 偉大なる使い魔-40 偉大なる使い魔-41 偉大なる使い魔-42
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1696.html
「ルイズ!何やってるのよ!!早く逃げなさい!!」 シルフィードの上からキュルケが叫ぶ。 ルイズの前では、30メイルに達するゴーレムが今まさに拳を振り下ろさんとしていた。 「いやよ!」 ルイズが叫び返した。 「魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない、敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ!」 それに反応するように、ゴーレムが腕を振り下ろす途中で動きを止めた。 その足元に、いつの間にかフードを被った人物――土くれのフーケ――が立っていた。 「好奇心から尋ねたいんだが」 フーケが口を開く。 「他人に背中を見られると…どうなるんだい?」 「さあ…?」 何故か、醒めた顔になったルイズがその問いに答える。 「見せた事、ありませんから」 フーケの好奇心がツンツン刺激された。 み…見てみたい……。 ゼロのルイズ。 魔法成功率がゼロのルイズ。 サモン・サーバントも失敗したルイズ。 召喚に失敗してからのルイズの落胆は酷かった。 それまで、魔法が失敗しても、同級生たちから罵倒されても、胸が小さくても、 常に皆を見返そうと努力し、何事も先陣を切って歩いていたルイズが、召喚失敗を境にコソコソと皆の後ろを歩くようになった。 教室に入るのは一番最後であり、教室では最後列に座り、時には壁際に立ち、教室を出る時も一番最後。 以前なら、学院の通路で誰かと鉢合わせした時、例え相手が上級生だとしても、 『どかしてみなさい…あたしがどくのは、道にウンコがおちている時だけよ』と決して譲らなかったルイズが、 今では相手が使用人でも、率先して壁際に退く様になっていた。 そんなルイズがフーケ討伐に志願した時は、その場に居た全員が驚くと同時に安堵した。 「ああ、この方がミス・ヴァリエールらしい」と。 残念ながら、土くれのフーケ討伐は失敗だった。 破壊の杖は戻ったが、討伐に志願したミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ及び道案内役のミス・ロングビルは帰ってこなかった。 真新しいわだちを辿って、フーケの隠れ家らしき小屋に行き当たった学園の教師達は、ゴーレムが崩れた後とおぼしき土くれと、 三人分の学院の制服、そしてミス・ロングビルの物と見られる衣服を発見した。 状況から見て、討伐に志願した生徒達は、フーケに返り討ちにされたと判断された。 同時にフーケ自身も、破壊の杖をその場に置いて逃げ出すほどの重傷を負ったのだろうと。 死体は何らかの理由によってフーケが別のものに練成したと推測された。 現場の衣服の側に落ちていた、見慣れぬ『小動物らしきミイラ』に気に留める教師は誰も居なかったのだ。 アルビオンの軍艦『イーグル号』に乗っていたウェールズ皇太子が「不審な風竜が居る」と、部下に声を掛けたのは、フーケ討伐『失敗』から二日後の事だった。 その風竜はイーグル号の下方300メイルあまりの所を、狂ったようなスピードを出しながら飛んでいた。 呼ばれた部下が欄干から身を乗り出し下を覗くと、風竜が血を噴出しながら落ちて行く所だった。 「多分、戦闘で傷ついた風竜が迷い出て来たのでしょう」 部下がそう伝えた時点で、ウェールズの様子はおかしかったという。 欄干に背を当てて座り込み、ニューカッスル城に着くまで一歩も動かなかったのだ。 秘密港についてからも、部下たちを先に下船させ、自分が最後に降りると言って聞かなかった。 その後は、自室に篭り、食事も自室で食べるようになり、誰とも会わなくなった。 心配した父王がやって来た時は、流石に顔を出したが、文字通りドアから顔を出しただけという始末だった。 それ以来、ジェームズ一世とウェールズ皇太子の仲は非常に悪くなった。 同時に、皇太子一人しか居ないはずの部屋の中から、ぶつぶつ呟く声が聞こえるようになり、兵士達の士気は非常に落ちてしまった。 「王子は戦争が怖くなり、おかしくなったのだ」と。 そのため、レコン・キスタの進行は大方の予想より早く進み、あっさりとニューカッスル城は攻め落とされた。 ウェールズ皇太子の部屋を見つけた兵士は、ウェールズの気が狂ったという情報を持っていたが、用心して仲間が集まるのを待って乗り込むことにした。 仲間が集まったところで、先頭の一人がエア・ハンマーでドアを吹き飛ばし、部屋に踏み込んだ。 そこには、杖も持たず、ガリガリにやせ細り、狂気的な眼を兵士たちに向けているウェールズが一人、ポツンと立っていた。 城全体が血生臭かったが、踏み込んだ兵士たちの鼻を別の異臭が突いた。 その場に居合わせ、幸運にもアルビオンを脱出する事の出来た兵士の話によると、ウェールズの最後の言葉は次の様だったという。 「ぼくの背中……見たいかい?フフフ…いいよ………フッ、見せて…あげるよ。ウフハ……ウヘ。フフフ………ヘ。ヘヘヘ」 ウェールズはまるでダンスのステップの様に、その場でクルリと背を向けた。 その背中が、まるで本をめくる様に引き裂かれ、血が噴出した。 「何が起きたんだ?」と最前列の一人が思ったとき、そいつの背中は既に裂き開かれていた。 そして、『背中から血が噴出す』という現象自体が、まるでドミノ倒しの様に兵士たちに伝わっていった。 その場に居た兵士たちは、全員ウェールズの方向を向いていた。 即ち、ほぼ全員が前に立っている味方の背中を視野に入れていたのだ。 噴血のドミノ倒しは城中を駆け巡り、敵味方問わず命を奪っていった。 ニューカッスル城で生き残った者は、ウェールズの部屋に踏み込んだ時『最前列に位置し』尚且つ『最初に背中を見なかった者』とだけとなった。 ニューカッスル城付近に野営していた貴族派の軍は、蜂の巣を突付いたような騒ぎとなった。 見えない何者かが、次々に味方の背中を引き裂いて行く。 必死に剣を、槍を、杖を振っても、見えない何者かを防ぐことが出来ない。 あっと言う間にあたりは血の海になった。 さらに、死んだはずの仲間の死体が何処にも見当たらない(実際は自分たちの足元に転がっていたのだが、誰も小さなミイラなどに構っていられなかった)。 「仲間を殺した『何か』は人を喰う」 しかも、大量に。非常に大量に。 それは何者にも勝る恐怖だった。 最早、自分達が勝利した等と思っている者は誰も居なかった。 最後の最後に、王党派が魔物を放ったのだ、と噂が流れた。 その後、30000人ほどの兵士が犠牲になった所で、貴族派は三つのルールに気がついた。 即ち、 1:魔物は無差別ではなく個人に取り憑く 2:取り憑かれた者は誰かに背中を見られた者は死ぬ。 3:見てしまった者の背中に魔物が移る。 だが、ルールに気づいたとて時既に遅かった。 魔物による虐殺を目の当りにた兵の殆どは、心を病んでしまった。 遠くで誰かが倒れたと思った瞬間、自分の傍らにいた者が血を噴出し倒れる。 近くで物音がしても、そちらを向いては行けない。 魔物が居る地域から無事に抜け出すためには、目を開いてはいけない。 恐怖のあまり自分の目を潰す兵士も少なくなかった。 魔物を心底恐れ、軍を脱走する者が続出して、レコン・キスタは軍としての機能を完全に失った。 さらに、貴族による『魔物狩り』が行われるようになった。 少しでも『背中を隠すように歩いた者』や、『家や自室から出て来なくなった者』は問答無用で殺されるのだ。 最初の内は、『魔物狩り』に強い反発を感じていた平民達も、魔物によってサウスゴータが死の町となったと知ってからは、逆に率先して『狩り』を行うようになった。 都市や町や村はその機能を失っていき、魔物と『魔物狩り』によって数ヶ月のうちにアルビオンの人口が半減してしまった。 当然の如く、アルビオン大陸で『謎の疫病』が猛威を振るっているという情報が周辺各国にも流れ、アルビオンへの入出国は全面禁止となった。 早い時期にアルビオンを脱出できた難民は幸運だった。 あるいは、早々に脱出した者達が、後から来る者達の退路を塞いでしまったのか。 アルビオンの魔物の脅威を難民聞いた各国の首脳達は、入出国禁止だけでは、脅威を防ぎきれないと判断し、 アルビオンからの飛来物は、例え脱出船であろうと、乗組員や乗客が何人乗って居ようと、全て撃墜し、焼却するよう命じたのだ。 こうして、神聖アルビオン共和国は建国する事無く滅びてしまった。 その後、アルビオンでは殆どの住民が原始的で排他的な生活を送っているという。 アルビオンが『浮かぶ孤島』と成ってから十余年、世界は平和だった。 皮肉にも、死の大陸となったアルビオンが空飛ぶ脅威となり、各国の結束を強めたのだ。 ラ・ヴァリエール家の中庭に、生前ルイズが『秘密の場所』と呼んでいた池がある。 その池の中心に設けられた小島には一つの墓碑が立っていた。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 誇り高き ヴァリエール家の三女 ここに眠る そこにはそう記されていた。 次女のカトレアが病死してから、訪れる者が殆ど途絶えた墓であったが、 年に数回、元グリフォン隊の隊長が、花を手向けに訪れるという。 ゼロのルイズ。 生涯で成功した魔法は、召喚だけだったルイズ。 一つの大陸を壊滅させた使い魔を呼び出したルイズ。 その事実を知る者はたった一人、ルイズに呼び出された使い魔だけであった。 「…ねっ!」 完
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/784.html
使い魔ファイト-1 使い魔ファイト-2 使い魔ファイト-3 使い魔ファイト-4 使い魔ファイト-5 使い魔ファイト-6 使い魔ファイト-7 使い魔ファイト-8 使い魔ファイト-9 使い魔ファイト-10 使い魔ファイト-11 使い魔ファイト-12 使い魔ファイト-13 使い魔ファイト-14 使い魔ファイト-15 使い魔ファイト-16 使い魔ファイト-17 使い魔ファイト-18 使い魔ファイト-19 使い魔ファイト-20 使い魔ファイト-21 使い魔ファイト-22 使い魔ファイト-23 使い魔ファイト-24 使い魔ファイト-25 使い魔ファイト-26 使い魔ファイト-27 使い魔ファイト-28
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1790.html
猫の姿なぞ見えないのに猫の鳴声がするだのでプチ幽霊騒ぎが起こっているが、正体はもちろん猫草である。 その猫草がヴァリエール家に住み着いてから約二ヶ月。 「…マジか?」 「ええ、明日の夜ぐらいに着くって姉様がフクロウで」 「ウニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」 ボールを転がして遊んでいる猫草の鳴声を背景に出た言葉が『マジか?』である。 覚悟はしていたが遂に来た。元ギャングをしてこれほどの反応を示す物。 つまり、遂にルイズがここに帰ってくるという事だ。 無駄に広い領地なので老化もあるし、まぁ大丈夫だとは思うが一応警戒態勢に入らねばならない。 「ニャギ!フギャ!ニャン!ニャ!」 「ルセーぞ」 何かヒートアップしてきた猫草の上に布を被せる。 しばらくもがいていたが、寝たようだ。自由奔放もいいとこである。 草だが猫。猫だが草。奇妙という言葉が最も似合う生物。 そして、その奇妙な生物を見て一発で猫だとのたまったカトレアのド天然さも。 ある意味似た者同士かもしれない。違うのは健康の問題ぐらいか。 この後、カトレアが先発して旅籠まで出迎えに行った。もちろん、動物満載の馬車で。 なお、猫草は居残りである。こいつ、猫だけあって人の好き嫌いが結構激しい。 多分、エレオノールあたりを見れば空気弾を撃ちこみかねない。 布の下でゴロゴロ音を出して爆睡している猫草の顎の下を触る。 紛れもない植物の感触に僅かに伝わる音の振動。…イタリアは猫が多いが、こいつ程好き勝手やってる猫もいねーだろとマジに思う。 とりあえず今は、来るべき来訪者に備え仕事を済ませておかねばならなかった。 そのヴァリエール家領地を進んでいるのは、ルイズ、エレオノール姉様、犬、シエスタの四名。 この前から三日後。さらに犬がアンリエッタとキスしていたという事で、色々格下げである。 まぁそれだけ気になっているという事かもしれんが。 職業メイドたるシエスタも何故居るかというと、エレオノール曰く『ど、道中の侍女はこの娘でいいわ』とのことだが、実際のところ理由は別にある。 ルイズを連れ戻しに学院に乗り込んだ姉様であるが、幾分勝手が分からないので見当違いなところまで入ってしまっていた。 「まったく…あの子ったら、戦争に着いていくなんて勝手なことを言って」 文句たれながら院内を歩くエレオノールだが、戦争という事でそれなりにルイズの事を心配しているようだ。 次に入ったのは風の塔。いい加減魔法でこちらの存在をアピールしようかと思ったが、そんな事やったら多分マズイので自重する。 人に聞けばいいのだが、不機嫌オーラ全開でドS丸出しのエレオノールに近付きたがる人はあまり居ないらしい。 メイジであれ平民であれドMはそうそう居ないものだ。 段々ムカついてきたのだが、倉庫の前で声が聞こえた。 丁度いい。人が居るなら聞こう。というか口を割らす。 ギャングの考え方になってきたが、妖精さんの件で一杯一杯なのである。 だが、入ると同時にエレオノールの顔が歪む。 視線の先には水兵服とスカートに身を包んだ…いやそれだけならまだいいが、小太りの『メーーーーーン!』だったからだ! 「はぁ…んぉ、ハァハァ…かか、かわいいよ…」 しかもなにやら悶えているご様子。扉を開けた様子にすら気付いていない。 「ぼ、ぼくはもう…う、うあああ」 生涯初めて見てはいけない物という物を見てしまった気がするが、気の強いエレオノール。これしきの事でひるんだりはしない。 「あなた、なにやってるの!」 「ひぃぃいいいいい」 その声に逃げようとした人が足をもつれさせ床をのた打ち回っていたが、その近くには『嘘つきの鏡』があった まず真っ先に嫌悪感が先行したし、こんな人の居ないとこでコソコソ怪しい事をやているということで、その背中を思いっきり踏んだ。 「使用人の分際で、こんな場所でなにやってるのかしらね…しかも、そんな格好で…汚らわしいわッ!」 踏んでいる足の力を強める。あの使用人(兄貴)に頭が上がらなくなったせいで、ストレスというものが溜まっているのだ。 「あ!んあ!あ!ふぁ!」 豚のような悲鳴をあげていたが、少々上気した顔で男が答え始めた。 「こ、この服があまりんも可憐すぎて…で、でもぼくには着てくれる人が居ないから…う、うぉぉお!」 「それで自分で着て、その『嘘つきの鏡』でって事?…情けないわねッ!」 グリィ! そんな音が聞こえそうなぐらい足をグリグリと動かすと、男が悲鳴をあげるが、どことなく悦んでいるような気がする。 「ハァハァ…あの時見た姿はまさに感動だ!ぼくのハートは可憐な官能で焦げてしまいそうさ! だから、その想いのよすがに、せめてこの鏡に自分の姿を映して…ああ、ぼくは…ぼくはなんて可憐な妖精さんなんだ…!あぁああああッ!」 即席とはいえ士官訓練を二ヶ月終え、空軍に配属され水兵服を見て彼が思い出したのは、あのルイズの姿。 乗艦する前に水兵服を一着かっぱらい、わざわざ抜け出して学院に戻ってきてのご乱行である。 そして『妖精さん』。今最もエレオノールが聞きたくない言葉にして忘れたい言葉だ。 それをわざわざ思い出させてくれたこのド変態をどうしてくれようかと思い、さらに踏む力を強める。 「あ!ああ!誰か知らないけど、あなたみたいな美しい人に踏まれて、我を忘れそうだ!う、うお、うおお!」 「おだまり!」 「ふひぃぃ!こんなところで可憐な妖精さんを気取ってしまったぼくにもっと罰をッ!お願いだ!ぼくの顔を踏んでくれ! 我を忘れた僕の罪と一緒に押しつぶしてくれ!そうだ、圧迫だ!呼吸が止まるぐらい!もう耐えられないッ!踏んでくれ!早く!」 「 『 圧 迫 祭 り 』 だ ッ ! ! 」 「まだ言うか!」 二回目の禁句。それに従い、顔を思いっきり踏み付け、鞭を取り出し打つ。 「もっとだ!もっと乗って!強くッ!ふぎぃ!?あぐ!ほごぉ!あぎぃ!」 「黙れと言っている!この豚!」 「ぶ、豚……?ああ、そうさ、ぼくは豚だ…!この醜くて卑しい豚にもっと罰をォーーーーーーー!!あ!あ!んああぁああああ!」 別世界に到達した男が気絶したが、その表情は達している。 「まったく…平民はこれだから…」 養豚場の豚を見るような目で気絶した男を見ているが、実際のところ平民ではなく、ここの生徒である。 が、扉の方から音。 そこにいたのは、かなり顔を赤らめているメイド。ご存知シエスタだ。 「ああ…やっぱり貴族の方達って、あの小説に書かれているような事を……」 『バタフライ伯爵夫人の優雅な一日』 トリスタニアで今人気の読み物らしく、倹約派のシエスタも自費で購入し読んだばかりである。 内容は『高貴な女性の口にはできない欲求が積もり積もって…』。言うまでもなくR指定相当の物だが、この世界にそんな概念など無い。 今のシエスタの目の前の光景は、どう見てもドMの豚に鞭を振るって悦に入っているドSの女王様なのだから、そう思うのも仕方無い。 小説にもそんな話があっただけに、もう間違いない。 ふとエレオノールと視線が合う。 マズイ。イケナイモノを見てしまったと思い、下手すれば次に鞭が振るわれるのは自分だと判断したようだ。 「ごご、ごめんなさい!」 踵を返し走り去ったが、テンション絶賛上昇中である。 どこか、うっとりしたような感じで顔を赤らめながら走っているが、まぁ無理も無い。 だが、エレオノールはそうはいかない。 『HOLY SHIT!』である。当人にしてみれば、そんなつもりは無かったが、状況的にそうなってしまっていると今更ながら理解した。 顔を踏んでいた足。手に持った鞭。『豚』発言。 状況証拠だけで殺人罪が立件できそうな勢いだ。 そしてそれを見られてしまった。 「ごご、ごめんなさい!」 そう言って顔を赤らめさせながら逃げ出したメイドを見て、血の気が本気で引く。 『妖精さん』だけではなく『女王様』という称号まで頂いてしまえば、再起不能どころか自殺モノだ。 さらに平民の中での噂が伝わる速度が恐ろしく早い事も知っている。 そして、それは何時か貴族の中にも… 『ヴァリエール家の長女が婚約を解消された理由は、夜な夜な伯爵を鞭で打っていたからだ』 「ま、待ちなさい!ていうか待って!お願い!」 そんな噂が貴族社会で流れる事を想像しながら、必死になって追いかける。 生涯これ程焦った事は無い。前回の件を一気に更新して最高記録である。 そして誰も居なくなった倉庫の中で、散々踏まれ、鞭で打たれ、罵られた男。 マリコヌルが達してしまっている顔で何かに目覚めていた。 というわけで、必死こいて説明し監視も兼ねて連れてきたという事である。 なお、半分涙目だったのは言うまでも無い。 「サイトさん…世の中知っちゃイケナイ事って結構あるんですね…」 「一体何が…」 どこか遠くを見て達観したような表情のシエスタと才人が乗った馬車と その後方にエレオノールとルイズが乗った馬車が続くが、前の馬車よりも立派な後ろの馬車からは妙なオーラが滲み出ている。 「ね、姉様…学院でなにふぁいだ!いだい!あう!」 「いい事、ちびルイズ?世の中には知らないでいい事が沢山あるの。それなのに、なんで見に寄ってくるのかしらね……?見なくてもいいものをッ!!」 今にも、この世はアホだらけなのかァ~~~~ッ! と言いながら目に指を突っ込まんばかりにルイズの頬をエレオノールがつねる。 今ならギャングのボスも立派に務まりそうだ。 「わ、わかりまひた…」 「戦争に行くだなんて。あなたが行ってどうするの!しっかりお父様とお母様に叱ってもらいますからね!」 「で、でも…この前の任務の時は…」 「あなた、戦争がどういう物か分かってるの?街での任務なんかとは一緒にしない!」 情けない声をあげて押し黙るが、エレノオールですらこれだ。ルイズには烈風を説得できるか非常に不安だった。 そんなギャングのボスと化さんばかりのエレオノールを乗せた馬車の前の才人だが、気分は暗い。 ルイズが戦争に参加するという事は、自分もゼロ戦ひっさげての参陣となる。 戦争なぞ17年生きてきて初めての体験だ。正直言えばやりたくなぞないが あの時のアンリエッタを見て『この可哀想なお姫様の手助けをしてやりたい』という気持ちが湧き上がっていた。 そういえば、姫様も結構胸が大きかったなー。 ああ、この戦争終わったらセーラー服着た姿見たい。多分、いや絶対似合う。清純そうだし。 そんな、けしからん妄想を犬がしていると、シエスタが曇った顔をして話しかけてきた。 「サイトさんも、アルビオンに行くんでしょう?」 「え?…ああ、うん」 シエスタも似合いそうだなー。と引き続き煩悩モード満載だったが、とりあえず現実に戻った。 「わたし、貴族の人達が嫌いです…自分達だけで殺し合いをすればいいのに…わたし達平民も巻き込んで…」 「戦争を終わらせるためだって言ってたけどな」 「戦は戦です。サイトさんが行く理由なんて無いじゃないですか」 元が同じ故郷という事で、それなりに、というかかなり親しくはなった。 「そうなんだけど…あいつが、そのままいるんだったら…多分、ルイズと一緒に行ってたと思うんだ。だから俺も」 実際のところ、その『あいつ』は親玉狙いで真正面からドンパチやる気は全く無い。 「死んじゃ嫌ですからね…知ってる人がいなくなるってのは、もう見たく無いんです」 ああ、もう可愛いなチクショー。ルイズとは大違いだ。いや、ルイズも可愛いけど精神的な意味で。 そんな事を思いつつも、プロシュートとの距離は確実に狭まっていた。 「こんなもんか」 一通りの仕事を終えて一息つく。 後ろで猫草がゴロゴロ鳴きながら寝ているのがムカつくがまぁ良しとしよう。 後は他のヤツに任せて適当にバックレてれば大丈夫なはずだ。 大体何時も飯食うときにあんな人並ばせる必要があんのかと。 刺客が紛れてたら死ぬぞ。と、元暗殺者として常々思う。 メイジといっても飯時を狙われたらどうしようも無いはずだ。 常に警戒してんのか、単に城の中に居るから安心しきってんのかのどっちかだとは思うがイタリアなら軽く2~3回は死んでいると考えなくもない。 プロはリスクを恐れてこういう所はあまり狙いたがらないのだが、追い込まれてテンパったカタギが自爆覚悟で襲撃してくる事がある。 後先考えていないだけに、そういう素人が一番怖い。 もちろん、暗殺チームはそんな事関係無しに殺ってきたが。 適当にバックレてる間に飯も終わったようで、一応の警戒はしているが視界の範囲にルイズの姿は無かった。 が、カトレアの部屋の方からルイズの短い悲鳴。数人の使用人が何事かと出てきたが 続いて『ニャーン』という鳴声が聞こえたので猫草だな。と納得した。 普通はああいう反応だろう。やはりカトレアは何かが違う。 次いで遭遇するとマズイのがシエスタだが これは、性格的に勝手が分からない場所だけあって、あまり部屋の外から出ないから大丈夫なはずだ。 そして、問題無いのが才人だ。 老化してりゃあバレやあせんだろうし、顔を合わせたのも一回だけだ。 むしろ、ここは後退するより前に出て才人から近況情報手に入れるのが得策かもしれないと判断した。 そう決めると早速行動開始だ。軽く捜したがすぐ見付かった。 つーか、負のオーラ全開でマンモーニさを限りなくアピールしていた。 説教した後のペッシがあんな感じだ。 元暗殺者に完全ロックオンされたとは露知らず、改めて身分差というものを痛感させられていた才人が浸っていると声を掛けられた。 もちろんヴァリエール家仕様で、髪型変えて、老化しているダンディさ300%増しのプロシュートである。 「シケた面してなにやってやがる。使い魔がルイズの側にいなくていいのか?」 「え、ああ。凄い城なんで、なんだか気後れしちまって。って、いいんですか?お嬢様を呼び捨てにして」 「構うこたぁねー。バレなきゃいいんだよ。バレなけりゃあな」 限りなくタメ口で軽く話しかけてきた男に気が緩んだのか、多少才人が明るくなる。相変わらず立ち直りだけは早いようだ。 「で…どんなだよ?使い魔ってのは」 「どんなって……優しい時もあるけど、犬って言われたり、鞭で叩かれたり…」 叩かれていたりするのは、まぁ自分に責任があるのだが、ダーティ入っている時、人はどんどんそっちに進むものである。 「たっく…全然、変わってねーな」 「昔から、あんなだったんですか?」 昔っつっても、月単位の事だ。そうそう変わりはしない。 「ああ、一回怒ると中々おさまんねーからな。そんなに嫌なんだったらさっさと逃げちまえ。稼ぎ口ぐらいは紹介してやんぜ?」 「それはできませんよ。一応、俺はあいつの使い魔だし……それに逃げたら、前のヤツに負けたような気がして」 (意地だけは一端ってワケか) よもや目の前の男が、先代だと思っていないようでどんどん話してくれるが 纏めると『あまりの貴族っぷりにビビって身分の違いを思い知り凹んでいる』という事らしい。 「少しそこで待ってろ」 プロシュートが厨房に消えていったが、しばらくすると壜を一本持ってきてそれを投げてきた。 「うわ!危ねぇ…これ、何ですか?」 「見りゃ分かんだろ。酒だ」 落としそうになったがなんとか受け取る才人だったが、不思議そうな顔をしている。 「いや、それは分かりますけど」 「適当にかっさらってきたが…まぁそこいらの安酒よりは良いモンだと思うぜ」 「いや、いいんですか?ここで働いてるのに」 「ハッ…!言ったろーが、バレなけりゃあいいんだよ。部屋がアレだろーからな。酒ぐらいは良いモン飲んでも構わねーだろ?」 全ての思考は、『ギられた方が悪い』。まさにギャング。 「あ、ありがとうございます」 「じゃあな。面倒だろうが、やるならトコトンやりな」 ナイスミドル!! 軽く笑いながらの顔を見て才人が本気でそう思う。 今の精神状態ならホイホイついていってしまいそうだ。 無論、誘ってもいないので、ついて来られても困るのだが。 ヴァリエール家に来てようやく人間扱いを受けたような気がして泣きそうな才人だったが とりあえず、廊下で飲むのもなんなので部屋に戻る事にしたのだが、先客がいた。 「遅い」 「…シシ、シエスタさん?」 部屋の中には、グビィと荒れている英国貴族を髣髴とさせる飲みっぷりのシエスタがいた 目が完全に据わっている。なんというかギャングっぽい。 「せっかく遊びにきたのに、居ないってのはどういう事れすか」 「い、いや、ちょっと話してて」 「ミス・ヴァリエールとですか。なんだかんだ言ってやっぱりそうですか」 「俺はルイズの事はなんとも…」 「まぁいいサイト。お前も飲め」 スゴ味を含ませた声でシエスタが呟く。ドスが効いててなんか怖い。 「い、いただきます」 怖いので差し出されたままの酒を飲む。 この後、才人が潰れるまで酔っ払いと使い魔によるほぼ一方的な酒リレーが行なわれる事になった。 酒リレーが開催されている中、ルイズはカトレアの部屋にまだ居た。 何故か知らんが、猫草を挟んで一緒に寝ている。 最初は驚いたものの、猫草が出す空気クッションが気に入ったらしい そのうちルイズが毛布被って外に出て行ったが、向かった部屋の先はある意味地獄に近かった。 「あら、いらっしゃい。ミス・ヴァリエール」 「なな、なんであんたがいるのよ!」 「する事が無いので遊びにきただけれすけど」 酒で顔を赤くしているシエスタと、なにか分からんが喰らえッ!的な感情で赤くしているルイズ。 こちらも対照的である。 そして、潰れている才人。もう少し飲んでいれば、ドッピオみたいに釘を吐いているような姿が見られたかもしれない。 「ミス・ヴァリエール」 「な、なによ…!」 こんな部屋でなにやってたのかと想像して、沸騰しかけのルイズだったが、シエスタの妙な迫力に押されていた。 「飲め」 ズイィっと差し出される酒瓶。プロシュートが見るに見かねて才人にギってきたのを渡したやつだが、もう半分程開いている。 「どうしたのよ、これ」 「とりあえず、飲め」 「そんな事いいから、自分の部屋に戻りなさい」 負けじと言い返したが、シエスタがルイズに顔を近づけてきた。 「サイトさんの事、好きなんでしょ?ハッキリ言ったらどうですか」 「な、な…!」 唐突に本丸を攻められルイズがうろたえる。『ジャーーーン ジャーーーーン』という音が聞こえそうなぐらいに。 「ち、違うわよ!な、なんでこんなヤツ…」 必死になって否定したが、気になっている事は確かで、現在心拍数絶賛上昇中だ。 そんな様子のルイズをシエスタがジーっと見つめ… 「……汗かいてますね」 「こ、これは暑いだけで、べ、別に…ひゃわん!」 ルイズの頬を伝う汗を舐めたッ! 「この味は…嘘をついてる味です…!ミス・ヴァリエールッ!」 「あ、あう…うぅ…ふひゃあ!」 「どうなんですか?…質問は既に…拷問に変わってるのれす」 汗を舐められるなぞ初体験だったので戸惑っていたのだが、続けざまにシエスタがルイズの平原…もとい胸を触っている。エロイ 「や、やめ……この、ぶぶぶ、無礼者…ひぁ!」 「無駄です。無駄無駄。そんな板じゃサイトさんは振り向いてくれません。わたしが大きくしてさしあげます」 遂に両の手でガッシリとつかみ始めた。…つかむ箇所があるかどうか知らんが。 「い、板じゃないもん」 「一度言った事を二度言わなきゃ分からないってのは、その人の頭が悪いって事です。贔屓目に見ても板です」 完全にギャングと化したシエスタだが、構わずにルイズの平原を掴んで手を動かしている。 とりあえず満足したのか手を離すと転がっていた酒瓶を抱えると外に出ていった。 「ひっく。早めに捕まえないと待ってるだけになるんですから」 「あ……」 少しだけ落ち着いた口調でそう言ったが ここ数ヶ月任務やら、ザ・ニュー・使い魔のおかげで頭の隅に追いやってあまり考えなかったが、意味する事に空気の読めないルイズも気付いた。 「そういえば、そうだったっけ…死んだかもしれないなんてとてもじゃないけど言えないわ……」 実際のとこ生存云々どころか同じ場所にいるのだが、全く気付かれては無いというのはプロと素人の差というやつだろう。 そして、寝るべく廊下を闊歩しているプロシュートの視界に入った珍妙な生物がそこに居た。 「…なんだこいつは」 目の前に映るのは、空の酒瓶抱いて廊下で倒れている非常によく見知った顔。 さすがにメイド服ではないが、猫草に負けないぐらい爆睡かましているシエスタだ。 「うお…酒クセー。なんであいつにやった酒持ってんだこいつ」 とりあえず、邪魔というか、こんなとこで寝てられても困る。 こんだけ潰れてれば起きないだろうとして抱えると運ぶ。とりあえず、部屋の場所は聞き出せたので運んだ。 「オレはこんなキャラしてねーぞ」 文句言いながら、シエスタをベッドに放り投げるように運んだが、介護キャラじゃあない。 相手を介護が必要にさせるように追い込んだ事は数え切れないが。 そんな事を考えながら、ドアの方に向き直って外に出ようとしたが、後ろからプレッシャーというかスゴ味を感じた。 そう…擬音が出んばかりにシエスタが立ち上がっていたからであるッ! 「な…ッ!バカな…こいつ起きて…!うぉおおおお!?」 急だったので、さすがの元ギャングも対処できずに押し倒される形となったが、色々とヤバイ。 何だ、この状況は!?カタギに元ギャングが倒されるってどういう事だよッ! それ以前に、このヤローどういうつもりだ!起きてたならせめて言いやがれ!クソッ馬鹿にしやがってッ! いや、この場合ヤローって言うのか?男じゃねーしな。あー、もうそんな事はどうでもいい。メローネでもいいから助けやがれってんだド畜生が! http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0411.jpg http //www.hp.infoseek.co.jp/v/b/l/vblave/cgi-bin/source/up0409.jpg 0.5秒の間にそんな事を考えたが、バレちまったモンは仕方無い。 ルイズとかにバレるよりはマシだ。 失敗は前向きに利用しなくてはならないとリゾットも言ってたはずだ。 「おい、オメー…とりあえず退け。どういうつもりか知んねーがな……こいつ……寝てやがる」 反応が無いので妙だと思ったがどうも寝ボケていただけのようだ。 一先ず安堵したが、そう安心してられない。 こんだけ焦ったのも久しぶりだ。 シエスタを引っぺがすが、スーツに涎が付いている。ヴァリエール家の私物の方だからいいが、持ち込んだ方だったら説教かましてるとこだ。 壁に背を預け溜息を吐いたが、引っぺがしたシエスタが重力に従ってもたれ掛かってきた。 試しに頬を少し強めにつまむ。 反応は無い。まぁ大丈夫だとは思う事にした。 というか、最近マジで胃が痛くなってきたかもしれない。今度水のメイジにでも診てもらおう。 手を離したが、シエスタは変わらない顔で爆睡している。 「しっかし…のん気そーな面ぁしてやがんぜ」 ペッシを除いた暗殺チームは寝ている時もかなり神経使っていた。 ギアッチョやイルーゾォはともかくとして、プロシュートは殆どの時はスタンドを出して寝ている。 今もそうだ。これも結構スタンドパワーを使うのである。 ルイズ達もそうだったが、かなり無防備な寝顔のシエスタを見て、少しばかり羨ましくなった。 襲撃を気にせず寝ていた時なぞ何時以来だったかと思ったが、思い出せそうに無い。 難儀な商売やってたなと思ったが、別段後悔はしない。 相変わらず、涎垂らして爆睡決め込んでいるシエスタだったが、なんかの夢でも見ているのだろうか腕を掴まれた。 「…やっと捕まえ…もう離しま……から……」 「なに見てやがんだかな」 この元ギャング、よもや自分の事だとは全く思わないし、思おうともしない。この元ギャングも大概ド天然である。 いい加減出たいので、腕を振るが、ガッシリと掴まれて離れない。 手でこじ開けてもすぐ、また掴んで離れない。 「……起きてんじゃねーだろうな」 これで狸寝入りだったら相当黒い。ブラック・サバス並に真っ黒だ。 どうしたもんかと、髪掻きながらマジに考えたが対処法が思いつかない。 典型的な強打者タイプのボクサーだ。普段が打つ方だけに、こういう打たれ方をされると弱い。 しかも、悪意無しにされると反撃のしようも無い。ある意味、こういうのが真の邪悪というのかもしれない。 「こいつまだ持ってたのか。メローネに売りつけられたモンなんだがな…そんな良い物か…?」 面倒だと思いながら視界に入ったのは、この前くれてやった飾りだ。 メローネに半分押し付けられんばかりに売りつけられたのだが、案外気に入っていた。 それを欲しい言われた時は、まぁ世話なってたしくれてやったのだが、他人がそこまで常備するようなモンでも無いだろとは思う。 徹夜で他のヤツの仕事引き受けて、バックレるための暇作っていたため、多少なりとも寝ておきたかったのだが 現状、無理矢理引っぺがすにしても何か知らんが妙に喰らいついてくる。 腕を飛ばされようが脚をもがれようともな!と言わんばかりに これ以上強くやると起きて面倒な事になりかねない。かといってこのまま寝ると洒落にならない気がする。 「仕方ねー…気が済むまで居てやっが、これでゼロ戦の貸しはねぇからな」 その内離れんだろと思っていたが、結構粘る。一時間経っても離れやしない。 「くそ…何なんだこいつ…」 元ギャング。しかも暗殺者にこんだけ遠慮が無いヤツってのは見た事が無い。 いい加減もうどうでもよくなってきた。 出たとこ勝負。そう考えると寝る事に決めた。 眠いものは眠い。こいつが起きるより早く起きればいい事だ。 バレたらバレたで黙らせばいい。こんだけ広けりゃルイズ達には聞こえないだろう。 何時もと同じようにグレイトフル・デッドを出したが思い直す。 横でアホみたいに涎垂らして爆睡しているヤツを見たら、スタンド出して寝るのがバカらしくなってきたからだ。 メタリカなら気にしなくてもいいんだがな、と思うと寝た。 同じ場所で寝る元ギャングと現役メイド。相変わらず実に奇妙な組み合わせであった。 ルイズ― 潰れている才人を見てムカついたのか一発蹴り入れてカトレアの部屋に戻った。 …が板と言われた上、色々やられたので部屋に付く頃には半泣きだった。 猫草―常に18時間ぐらいは寝て、起きている時は食ったり遊んだり、犬とは違って充実している。 マリコルヌ―覚☆醒! 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/135.html
魔法学院の教室の1つ。 ルイズ達二年生は、今日はここで『土』系統の魔法の講義を受けることになっていた。 皆、様々な使い魔を連れていた。 キュルケのサラマンダーをはじめとして、フクロウや、カラスや、ヘビやドラゴンや…実に多種多様だ。 召喚が終わってから初めての授業、本来なら使い魔の見せ合いで騒がしくなるはずなのだが、 彼らは今日は一段と静かだった。 皆、1人の生徒の登場を待っていた。 『ゼロ』のルイズ。 魔法を全く使えない彼女が、サモン・サーヴァントでとんでもない化け物を呼び出し、挙げ句の果てにコルベール先生に重傷を負わせたらしいという噂が、まことしやかに囁かれていた。 目撃者の証言によると、彼女が召喚したのは化け物ではなくて『死体』…それもバラバラの… だそうだが、彼らの叫びは他の生徒の、常識という箱に入れられ、蓋を閉められた。 大体の生徒は、化け物説を信じ、期待とスリルに胸をふるわせていた。 ギイと、重々しく講義室の扉が開いた。 他の生徒は皆そろっていたので、残る1人は必然的に噂の『ゼロ』ということになる。 果たして、入ってきたのはルイズであった。 皆の視線がルイズに向けられていた。 そして、ルイズに続いて入ってきた、1人の男に。 だれもかれもが、あっけにとられていた。 "なんだ。どんな化け物かと思ったら、ただの平民じゃないか" 1人また1人くすくすと笑い始める。 だが、キュルケとタバサは鋭い視線を男に向け、 そしてルイズの召喚を間近で見ていた一部の生徒は、困惑しながらも怯えていた。 そしてさらに一部の生徒は、その男が自分達と同じ食卓についていたことを思い出し、眉をひそめた。 ルイズは不機嫌そうにドカっと席についた。 そしてルイズが男と一言二言、言葉を交わすと、男は生徒達の間をゆっくりと通り抜け、後ろの壁にもたれかかり、腕を組んだ。 初めは興味深そうに生徒達の使い魔を観察していたが、 やがて飽きたのか、その手に抱えていた本を読み始めた。 先日ルイズが与えたものなのだが、どうみても子供向けなそのタイトルが、 ますます生徒の笑いを誘った。 そうしているうちに扉が開いて、先生が入ってきた。 優しげなおばさんの雰囲気を漂わせている彼女は、ミス・シュヴルーズといった。 彼女は教室を見回すと、満足そうにほほえんで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。 私はこうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは皮肉気な笑みを浮かべた。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。 ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズが後ろで本を読んでいる男を見て、とぼけた声で言うと、教室はどっと笑いに包まれた。 「おい『ゼロ』!召喚に失敗したからって、その辺歩いてた平民 を連れてくるなよ」 ルイズはだんまりを決め込んだ。 それをどう誤解したのか、クラスメイトの嘲りはますますひどくなっていった。 『かぜっぴき』のマリコルヌが、ゲラゲラ笑った。 「あの『ゼロ』だぜ? 失敗に決まってるじゃんか。 皆、知ってるよな?今までルイズがまともな魔法に成功した回 数は?」 "『ゼロ』だ!"と、他の生徒が唱和した。 再びゲラゲラ笑い。 調子に乗って歌まで歌いだした。 "♪ルイルイルイズはダメルイズ~♪魔法が出来ない魔法使い♪…" みんなして調子を合わせられているところを見ると、影で結構歌われているようだ。 ルイズは拳を握りしめて屈辱に耐えていた。 爪が食い込んで血が垂れる。 どうせ、言ったってわからない奴らなのだと、必死にそう自分に言い聞かせた。 シュヴルーズは、厳しい顔で教室を見回した。 そして、杖を振ると、ゲラゲラ笑っている生徒の口に、どこから現れたのか、ぴたっと赤土の粘土が押しつけられた。 「お友達を侮辱するものではありません。 あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 教室の笑いが収まった。一見するとシュヴルーズの懐の深さが示されたように見えるが、 そのキッカケを作ったのは間違いなくシュヴルーズであったし、マリコルヌたちの狼藉をしばらく見過ごしていたのも、シュヴルーズであった。 楽しんでいるのだ、結局。 ルイズは思う。 自分が笑われているところを楽しむだけ楽しんでおいて、 キリのいいところで、どこかの聖者よろしく 「貧しい者こそ救われる」とばかりに手を差し伸ばすのだ。 とんだ自己満足だ。 貧しいのはそっちの脳みその方だ、この偽善者め…! ルイズは心の中で吐き捨てた。 そんなルイズの胸中を知らずに、シュヴルーズは授業を再開した。 彼女が杖を振ると、机の上に石ころがいくつか現れた。 そして、この授業のメインである、『錬金』の講義をはじめた。 知識だけは他の生徒よりはあるルイズは、耳タコなその内容に飽き飽きして、ボーッとしていた。 「私はただの、『トライアングル』ですから…」 そんなシュヴルーズの声が聞こえた。 えぇカッコしぃめ…! と思いながら、ルイズは後ろを振り返った。 後ろでは、自分の使い魔であるDIOが、本に目を注いでいたが、シュヴルーズが石ころを真鍮に変える魔法を使っている時には、しげしげと前を向いていた。 (一応聞いてはいるんだ…) 案外好奇心旺盛ね、とルイズが考えているところに、シュヴルーズからの呼び声がかかった。 「ミス・ヴァリエール! よそ見をしている暇があるのなら、あ なたにやってもらいましょうか」 「え、わたしですか?」 突然のことに、ルイズは焦った。 話を全く聞いてなかった。 「そうです。ここにある石ころを、あなたの望む金属にかえてご らんなさい」 あっさり話の内容をネタバレしたシュヴルーズを小馬鹿に思いつつ、ルイズは俯いて、密かにほくそ笑んだ。 一発かますチャンスだ。 そして、これ以上ないってほどの作り笑顔で、立ち上がった。 「わかりました、ミス・シュヴルーズ! わたし、失敗するかも しれないけど、精一杯やってみますわ…!」 キラキラと瞳を輝かせる様が嘘くさかった。 ルイズの恐ろしいほくそ笑みをしっかり見ていたキュルケは、空恐ろしいものを感じ取り、止めに入った。 『ゼロ』ネタでからかわれた後のルイズは、何をするか分からない。 「ミス・シュヴルーズ。やめたほうがいいと思いま…ひっ!」 ルイズはギロリと、シュヴルーズには分からないようにキュルケを睨んだ。 "邪魔するならあんたから吹き飛ばす"ルイズの目がそう言っていた。 そしてルイズは、目尻に涙を蓄えながら、よよと嘆いた。 「そうですわね。ミス・ツェルプストーの言うとおりですわ。私 なんかがやったら、皆さんの大切な授業の妨げになってしまい ます……」 そうして、悲しそうにうつむいて席に座ろうとするルイズを、シュヴルーズは引き止めた。 「いいえ、いいえ、ミス・ヴァリエール。誰にだって失敗はあり ますとも! さぁ、やってごらんなさい。失敗を恐れていては、何も出来ま せんよ」 (………計画通り…!) ハナから勝負にならなかったのだが…。 ルイズはいかにも可憐な笑顔を浮かべて立ち上がった。 しかし、彼女の背中には、目にもの見せてくれてやると、どす黒いオーラがただよっていた。 キュルケの横を通り過ぎるとき、ルイズはドスのきいた、低い声で呟いた。 「友達のよしみよ。さっさと消えなさいな、ツェルプストー」 もうダメだ。おしまいだ---顔面蒼白でキュルケは戦慄した。 そうして、わざわざ教壇の側に回り、石が全員に見えるようにして、 離れた所から錬金の魔法にしては異常な量の魔力を石の全てに込めだしたルイズを尻目に、 キュルケはじっとDIOに視線を向け続けるタバサをひっつかんで教室を脱出した。 ―――次の瞬間、教室の中で、学院全体が揺らぐほどの大爆発が起こっていた。 間一髪だ……、キュルケは己の生を始祖ブリミルに感謝して、床にへたり込んだ。 to be continued…… 19へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/86.html
見えない使い魔-1 見えない使い魔-2 見えない使い魔-3 見えない使い魔-4 見えない使い魔-5 見えない使い魔-6 見えない使い魔-7 見えない使い魔-8 見えない使い魔-9 見えない使い魔-10 見えない使い魔-11 見えない使い魔-12 見えない使い魔-13 見えない使い魔-14 見えない使い魔-15 見えない使い魔-16 見えない使い魔-17 見えない使い魔-18 見えない使い魔-19 見えない使い魔-20 見えない使い魔-21 見えない使い魔-22 見えない使い魔-23
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1827.html
ヴェストリの広場に向かうルイズとワムウ。 「勝算はあるのか?」 「ないわ」 「作戦はあるのか?」 「ないわ」 「俺に助けろなどというのか?」 「言わないわ……ああ、なんであんなこと言っちゃったのかしら…あんたに似てきたのかも」 口調は嫌がっているようだが後悔の念はなかった。 「ならば、付き添いは必要ないな」 「あら、何様のつもり?主人に付き添いって私子供じゃないのよ」 「俺から見れば人間なんぞ皆子供だ」 ワムウがフッと笑う 「よく言うわ」 「遅れるなよ」 「あいつが笑ってるところなんて……初めて見たわね。雨でも降るのかしら」 * * * 「はあ?ゼロのルイズが決闘?あの恐ろしい使い魔じゃなくて?」 キュルケがタバサから噂を聞き、首を傾げる。 「変ねえ、あいつは後先考えないことがあるとは忍耐だけはあると思ってたのに。 ま、あのヴィリエじゃもし気に入らなくなったらなにするかわかんないけどね、最近は落ち着いてきたと思ってたけど。あいつ何されたのよ」 「メイドが侮辱された」 たまたま食堂にいなかったキュルケの代わりに事態を見ていたタバサは答える。 「あいつも素っ頓狂な理由で決闘なんかするわねー。確か禁則事項だったわよね?校則は守らないと」 「私たちも人のことは言えない」 「未遂でしょ。校則破りなんてバレなきゃいいのよバレなきゃ」 キュルケは立ち上がって歩き出す。 「どこ行くの?」 「あんた程じゃないけどヴィリエは確か風のラインメイジでしょ?点もないのにどれだけやれるかからかいに行くのよ」 * * * 「なに?あのルイズが決闘だって?本当かい、モンモンラシー」 決闘でのケガでまだ医務室暮らしのギーシュ。 「ええ、本当よ」 「やれやれ、あの使い魔に影響されたのかな?それで、原因と相手は?」 「風のラインメイジのヴィリエよ。原因は私は直接見てないけど、シエスタっていうメイドの平民らしいわ」 「ああ、あの脱いだら凄そうな」 「ギーシュ、そうえいばケティの件問いただしてなかったわね?あと見舞いに来た子達のことも」 モンモンラシーに殺気が宿る。 その気配を感じ取って慌てるギーシュ 「ははは、何言ってるんだモンモンラシー、君の愛のこもった看護のおかげで全治数週間のケガだってのにもう歩けるようになったし、僕もヴェストリの広場を見に行こうかな」 言うが早いか、ギーシュは立ち上がって医務室を出ていった。 「まったく、あの浮気癖の治療法はないのかしら…」 モンモンラシーはため息をついて、医務室を出て行った。 もちろん、行き先はヴェストリの広場。 * * * 「おい、また決闘だってよ」 「誰と誰がだい?またゼロの使い魔かい?」 「その主人とヴィリエだってよ」 「チハとシャーマンくらい差があるな」 「いや、クリリンと魔人ブウくらいだろ」 「いやいや、勇次郎とディーノ男爵くらいだって」 「ちょっと待てお前、地獄の魔術師バカにしやがったな?」 「あんな奴ヘタレじゃねーか、所詮鎮守直廊三人衆だろ」 「黙れ、今その思いをはらしてやる!キレまくってはらしてやる!」 「俺が最強だ!はらしてやる!」 「最高にハイ!って奴だーーッ!」 * * * ヴェストリの広場、決闘開始10分前。 「立ち見席でいい、買うぜ!50ドニエまで出す!」 「金さえ出すなら一番前の席だって引っ張ってきてやる」 「特等席だっ!……500ドニエ以上出せる奴っ……!ケチケチしてると買い損なうぞ!」 席の売買まで行われ、非常に活況を呈している。 この前のワムウとギーシュの決闘での結果が尾を引いているのか、それともルイズがどう戦うか見ものなのか。 「ヴィリエに5スウ賭けるぜ!」 「あ、あれは!1ヶ月分の小遣い全部だ!」 賭けも行われ、さながら祭りのような異様な雰囲気だ。 あまりの騒ぎに校長を含め、教師が駆けつけたが、止めるどころか声すら届かない。 「のう、ミス・ロングビル。ワシ、けっこう娯楽だけは用意しているつもりなんじゃが、近頃の子供はそんなに退屈しておるのかのう……今期の学生は色々と不安じゃ……なんとか仲裁できんかの?」 「ミスタ・オスマンがやらないなら無理でしょう」 「スクウェアクラスが5人居ても仲裁なんて無理ですな」 「やれやれ、こういうときはいつも風を自慢しておるミスター・ギトーに押し付け…任せたいんじゃが、あやつはどこにいるんかの?ミスタ・コルベール」 「えーっと、さっきチラっと見たんですが…」 コルベールがあたりを見回す。 そして、ギトーを見つける。 「最前席に座ってますな」 コルベールはため息をつく。 「なあ、ちょっとあやつを殴ってきていいかの?わしゃもう泣きたくなって来たわい…」 「やれやれ、すごい活況だね、モンモンラシー」 立ち見席で遠巻きに広場を眺めるギーシュとモンモンラシー。 そこに席を探しているキュルケとタバサがスペースを目ざとく見つける。 「……ほんと、どこも空いてないわね…あ、ギーシュの隣が空いてるわね。あそこで妥協しましょう、行くわよタバサ」 「妥協ってなんだねキュルケ、そんなに僕の隣がいやなのかい?」 「あんたの隣なんて座ってたらうるさいのが増えるもの、あんたの女だなんて思われると色々と面倒だしね」 「…僕の名誉を貶すのがそんなに好きかい?」 「あんたの名誉なんてこの前の決闘で急落も急落、整理ポスト行き同然じゃない」 「せめて、そういうことはモンモンラシーの前以外で言ってくれよ…」 決闘後の医務室で五股もバレ、使い魔に決闘で敗れて取り巻きも消え、唯一残ったモンモンラシーの中での評価もガタ落ち。 それでも彼女が残ったのは決闘の原因が彼女の香水であったこともちょっとだけ影響している。 「おいお前らも賭けないか?1口10ドニエだ」 小銭の入った箱と賭け金の額を書いている紙を持った同級生が彼らに尋ねる。 「今の倍率どうなってんのよ」 キュルケが興味を示す。タバサはギャンブルは嫌いではないが、野暮だと思って顔を上げない。 「賭けになんねーよ、今ならルイズに賭ければ140倍だ、どうだい賭けないかい」 彼は肩をすくめる。 ギーシュがポケットの財布を出し、 「そうだな、じゃあルイズに5口かけるよ」 「ほう、ギーシュ、なかなかギャンブラーだな」 「彼女が勝ってくれれば彼女の使い魔に負けた僕も少しは汚名返上できるかもしれないからね。まあお祈りみたいなもんさ」 ギーシュは苦笑する。 「そうねえ…」 キュルケが呟く。 「じゃあこれくらいかしら…5スゥだから…50口ね」 「はいはい、ヴィリエに50口ね」 「待って、わたしの『投票先の選択』の発言がまだすんでないわ」 帳簿に書き込もうとした彼の手が止まる。 「ルルルルルルルルルルル、『ルイズ』だとッ!あんたは一番バカにしてるはずじゃ…」 「140倍なら十分儲かる見込みありよ」 「驚いた、こんだけもらえれば黒字だな、サンクスキュルケ!」 彼は去っていった。 「どういう風の吹き回しだい、キュルケ?」 「言ったとおりよ、殺し合いならともかくルールのある決闘なんだから十に一つくらいはルイズでも勝てるでしょ。 1割で勝てるんだから140倍なら限界まで張らないと……それに、なんとなく『なんか』やりそうなのよね、あの子」 ギーシュはニヤっと笑った。 「君はルイズ以上に素直じゃないな」 「どういう意味よ、燃やすわよ」 キュルケはニコリともせずにギーシュを睨んだ。 「ふーっ、もうすぐ決闘開始か、まあこんなもんだろうな」 帳簿を見直し、一息つく。 「おい、そこの男」 「ヒッ!な、なんですか?」 いきなり後ろから巨漢に話し掛けられ、ビクりとする。 どうみてもメイジではないが、平民からの賭けも募っているため、その件かと思う。 「なんでしょうか?賭けならば一口10ドニエですが」 「賭けをやっているらしいな、この宝石を賭けよう、証明書もある」 大男は宝石と証明書を懐から出してくる。素人でもわかるくらい素晴らしい輝きを誇っている。 「そうですね…それはいくら分ですか?」 「100エキューだと書いてあるな」 冷や汗が彼の頬を走る。 (ひゃひゃひゃ100エキューだって!?馬が何頭帰るんだ!?えーと…2頭、3頭、5頭、7頭…) 「どうした?受けないのか」 「そ、そんな、ヴィリエにそんなに賭けられたら赤字ですよ」 「ヴィリエ?誰だそれは、俺はルイズに賭けると言ってるんだ」 彼の汗が引く (やったァーーッメルヘンだ! ファンタジーだッ!こんな体験できるやつは他にいねーッ!) 「わかりました、ルイズに100000口ですね!」 (でも…万が一…当たっちゃったら…俺破産だな!そんなわけないだろうけどね!ハハハ!) 「「ルイズ・フランソワーズの入場だァーーッ!」」 場内から歓声があがった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1800.html
教室の一角。マントを羽織った少年少女達の間に、大男が倒れていた。 気を失っているようだが、それでもその雰囲気にはなにか語るべくないものがあった。 「へ、へいみん?」 「そもそも人間?」 「ゴーレムとかじゃない・・・よな?」 「ざわ……ざわ……」 筋肉質であり、マントや宝石などの小奇麗なものはつけていないことから、貴族ではないことはわかる。 しかし、彼の頭には角。彼の両肩にも角。人間ではないのか、人間、あるいは亜人だとしても平和的な人間でない可能性が 非常に高そうだとメガネの少女は冷静に分析した。 「ゼロのルイズ!なにを呼び出したんだ!」 「何度も失敗して、成功したと思ったらこれかよ!」 「まともに使える魔法はないのか!」 教室から少女に向けて野次が飛ぶ。 桃色の髪の少女が叫ぶ。 「こ、コルベール先生、やっぱりこの大男とも『契約』しなければいけませんか?」 「ミス・ヴァリエール、例外はありませんよ。」 少女は少し唸った後、諦めたように気絶しているであろう大男に近づく。 「き、貴族にこんなことされるなんて……普通は一生ないんだからね!」と気絶している大男に話し掛ける。 そして、彼の顔に顔を近づけ、唇をあわせた。 左手の甲が光る。 「ROOOOAHHHHHHH!!」 それとほぼ同時に大男が叫び声と同時に目を覚ました。 (な、なんだこの痛みはァーーッ!このような痛みは……例えるなら、そう『波紋』ッ! それに…なぜ俺はこんなところにいるッ!?) 叫び声をあげた大男の迫力から、本能的に命の危険を感じて逃げるようにして 教室の出口へ向かうものが現れる。 「女ァーーッ!俺になにをしたーーッ!」 少女はその叫び声に怯み、数歩下がりつつ答えた。その前にさりげなく髪の薄い男性が立つ。 「つ、使い魔のルーンを刻んでいるのよ。すぐ終わるから、あ、安心しなさいよ…」 左手の甲の光が収まり、痛みが治まった大男は状況を確かめようとする。 (俺は、『エイジャの赤石』を賭けて、ピッツベルリナ山神殿遺跡で、古代ローマの戦車戦を行い… ジョセフと戦った末……奴に敗れて死んだはず…… しかし、無い筈の両腕!両足!胴体!全て元通りだ……どうなっているんだ?俺は死んだのではないのか? 死んだことに悔いはない。一人のジョセフを戦士に成長させ、その戦士に全力を持って戦い、 敗れて死んだということは誇りでもあるし、名誉でもある。 が、しかし……生きている……死ぬ前の走馬灯という奴でもなさそうだ……) 彼は少女に向き直って強く問い詰める。 「女、ここはどこだ……俺に何をした。」 「さ、さっき言った通りよ。あんたを私が『サモン・サーヴァント』で召還して使い魔の契約をしたの。 つまりあんたは私の使い魔。わかった?平民だからわからない?」 「『サモン・サーヴァント』だと?確か人間どもの言葉で『召使』だったか……俺に召使をやれと?」 「だからさっきから使い魔だって言ってるでしょ。主人である私の望むものを見つけてきたり、守ったりするのよ。 使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずなんだけど……まだ契約して時間が短いからかしら、 なにも見えないし聞こえないけど……そうそう、もちろん主人である私には絶対服従ね。」 「先ほど召還などといったか……よくわからんが何か普通の人間どもとは違う能力を持っているようだな? 死の淵に居た俺を五体満足までに回復させるのだからたいしたものだ。場所もどうやらピッツベルリナ山神殿遺跡でもなさそうだ……」 「あ、あんた?魔法も知らないの?どこのド田舎のド平民よ!?ピッツベルリナ山なんて聞いたことないわよ! だいたいあんた、人の話聞いてないでしょ!あんたは私の使い魔になるの!わかってるの?」 少女はルーンを結べたこともあって面食らいつつも少し強気に出ていた。 が、使い魔に素直になる気を微塵も感じられないためにただでさえ常日頃バカにされている少女は 焦り、いらついていた。 が、やはり大男の返答は少女の望むものではなかった。 「体のいい召使い兼ボディーガードなどをなぜ俺がしなければならない?俺が従うのは強者だけだ。断る。」 「は、はぁ?あんた、人の話わかってるの?大体強者って……平民だか亜人だかしらないけど、 仮にもここは魔法学校。これだけの貴族に囲まれて勝てると思ってるの?」 「そう思うなら……試してみるか?力づくでここを出ても構わなんしな。」 大男はなめ回すようにクラス見る。その迫力に短く声をあげるもの、後ろに倒れるものなどがいたが、各自同じようなものであった。 「……が、この部屋には俺の相手をできるような者はいないようだな……そこの男は見込みがありそうだが、生憎リングがないものでな。さ、どけ」 「だ、誰がどくっていうのよ!私がどくのは道にマリコルヌが落ちてるときだけよ!」 少女は数歩後ろに飛びのき、杖を向ける。 「ミス・ヴァリエール!貴女は下がっていなさい!」 男が叫び大男に杖を向ける。ぶつぶつと何事か唱えた後に杖の先から炎の玉が大男へ向かう! しかし彼は、片手だけで、その巨大な炎の玉を払いのけた。 まるで、ハエを払うかのように。 普通の相手であればかわすのも難しいタイミング、威力も普通の相手であれば手で払いのけることなど選択肢にすら 入らなかったであろう威力。まさに絶妙な攻撃であった。 惜しむらくは、放った相手が普通の相手ではなかったことだ。 「ここの人間どもは波紋の一族とは違う……なにか不思議な能力を持っているようだな……魔法学校などといっていたが… これらを『魔法』と呼んでいるのか?だが、威力も工夫も足りなかったな。貴様でこの程度ならば……たかが知れるな」 彼は致命傷どころか火傷すらしていない。 怯む様子もなく、彼は起き上がった。そして、光、前の世界であれば忌むべきものであった光の差す 窓の方向へ走り出し、その方向にいた先ほど攻撃してきた杖を持った男に蹴りを放とうとするッ! 起き上がった勢いによる攻撃と脱出を同時に行う。彼の戦闘のセンスは失われていなかった。 1対1ならば確実に仕留めていただろう。1対多でも彼の神経が研ぎ澄まされた、彼が言えば激昂するであろうが 油断していない状況であればその蹴りは入っていたであろう。しかし、彼はその男以外を敵としてみなしていなかった。 伏兵は男の後ろの少女だった。 少女が叫ぶ。 「コルベール先生……下がるなんてできません……敵に……敵に背中を向けないやつを貴族と呼ぶんです! 『ファイアー・ボール』!」 先ほどの少女が大男に杖を向け、なにかを飛ばす。 大男は先ほどと同じタイプの攻撃であると断定し、同じ対処を試みた。 片手をなにかが飛んでくる方向に出し少女を見据える。 「馬鹿の一つ覚えかッ!MOOOOOO!!」 片手でそれを払いのけようとした…が!それが腕に着弾した途端!爆発をおこしたッ! 彼女の唯一の『得意技』である爆発が大男を包む! 轟音が部屋を包む。教卓の上の備品が少々吹っ飛ぶ。教卓も吹っ飛ぶ。しかし、それでも大男は立っている…はずだった。 その大男の類まれなる身体能力をもってすれば、この程度の規模の爆発では驚きすらしなかっただろう。 しかし、大男は立てなかったッ!爆発による煙が舞っている中、彼はひざまずいていた。 その爆発は『普通』の爆発ではなかった。 (か、体が痺れるッ!う、動けんぞッ!幸い体は無事のようだが……これはまるで『波紋』ではないかッ……MOOOOOO……! しかし、この少女…波紋戦士には見えん……シーザーのシャボン玉のような攻撃のように攻撃してきたなにかに波紋を含めているなら、 俺の体の神経は破壊されるはずッ!しかし、動けないだけでそれはない……さらに、無意識下の波紋戦士でもしているはずの 波紋の呼吸をしていない。そして、なによりもッ!戦いについて場数を踏んでいる雰囲気、こういった命の危険に大して無防備すぎる…… つまり、この程度の能力を持った人間はこのあたりにはいくらでもいるということか? ということは、俺に適うだけの戦士がまだどこかにいるのではないだろうか? 我が柱の男たちの敵は波紋戦士たちだけだと思っていたが……少し…興味がでてきた…この魔法とやらに) 強者と戦いこそ全てである大男は心境の変化とともに立ち上がった。 そして、煙がはれたのち、少女は立ち上がった大男に話し掛けた。 「これで貴族と平民の格の違いがわかったでしょう!おとなしく使い魔になりなさい!」 「……いいだろう……少しの間、その使い魔とやらになってやろう……」 「少しの間って…ま、今のところはまあいいってことにしておいてあげる。 じゃあ、使い魔には名前が必要ね。あんた、名前ある?」 風の戦士が、二度目の二〇〇〇年ぶりの目覚めを果たした。 「俺の名はワムウ。風の戦士ワムウだ。」 風と虚無と使い魔 召還潮流